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ソドムを去るロトとその家族(ルーベンスの構図に基づく)

ヤーコプ・ヨルダーンス(に帰属)
1593年 - 1678年
ソドムを去るロトとその家族(ルーベンスの構図に基づく)
1618-20年頃
油彩/カンヴァス 169.5 x 198.5 cm
P.1978-0006

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創世記第19章の「ロトの物語」に取材したこの大作には、画面いっぱいに、イスラエルの族長アブラハムの甥ロトが二人の天使に促されて、家族と共に罪深き町ソドムから逃れる場面が描かれている。中央に配されたロトは町を立ち去り難い様子である。ロトの背後で悲しみの表情を見せるのはロトの老妻、右端で財貨を運び出そうとしている二人の若い女はロトの娘たちである。娘たちの暗い表情には、父親との近親相姦という、このあとに生じる背徳行為への暗示がこめられているのかもしれない。中央奥に見える円柱も、うしろを振り返るなという神の命令にそむいて塩の柱に変えられる、ロトの妻の運命を予言しているかのようである。
本作品には寸法と構図が微妙に異なる作例が他に3点知られている(フロリダ州サラソータのリングリング美術館、同州マイアミ・ビーチのバース美術館、個人蔵)。これらの作品を詳細に比較検討することはルーベンス工房の実体の解明に道を拓くとの考えから、1993年夏に国立西洋美術館は「ソドムを去るロトとその家族――ルーベンスと工房」と題する小展覧会を開催し、リングリング美術館と、バース美術館の油彩画、リューカス・フォルスターマンによる複製版画、版画のための下絵素描を、本作品と共に展示した。それを機会に綿密な調査を実施し、内外の専門家と意見を交換したが、その結果明らかになったことはおよそ次のとおりである。リングリング美術館の作品は、副次的な部分には弟子の手が入っているにせよ質的には圧倒的に高いことから、ルーベンスによるオリジナル作品と考えられる。バース美術館の作品は、おそらくリングリング美術館の作品にもとづく工房作。国立西洋美術館の作品は、巨匠の腕が発揮されるべき頭髪や天使の翼が類型的に表現されていることから、それまではルーベンスの監督下に制作された工房作と見なされてきた。しかし、多くの点でリングリング美術館の作品と異なることから、おそらくバース美術館の作品にもとづく自由な模写と推定される。作者については、確証こそないが、逞しい肉体表現と冷たい薄紫色を根拠に、ルーベンスの若き協力者であったヤーコプ・ヨルダーンス(1593-1678)の最初期の作と見なすデュルストの説が現時点では有力視されている。

(出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 2006. cat. no. 28)

写真:ヤーコプ・ヨルダーンス(に帰属) ソドムを去るロトとその家族(ルーベンスの構図に基づく)