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聖アントニウスの誘惑

ダフィット・テニールス(子)
1610年 - 1690年
聖アントニウスの誘惑
油彩/カンヴァス 80 x 110 cm
中央下に署名: D. TENIERS. FEC
P.1991-0002

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聖アントニウスはしばしば悪魔の誘惑にさらされて、その信仰心を試された。空想的な魔物や魔女が登場する「聖アントニウスの誘惑」はネーデルラントにおいて頻繁に取り上げられた主題のひとつである。本作品では廃墟となった建築物の壁面を背にして、画面の中央下部に祈りを捧げる聖アントニウスが描かれている。鳥、魚、人体、動物の骨などを自由に合成して創造された魔物たちに取り囲まれた聖人は、白い服で着飾った女性を緊張の面持ちで見つめている。この女性は愛欲の象徴であり、聖人を誘惑しようとグラスを差し出しているのである。よく見ると彼女の足は鳥の鉤爪をしている。聖人の左背後では、悪魔の化身である角のはえた遣り手婆が彼女を指さしている。
さまざまな怪物のイメージに目を奪われて看過してしまいがちであるが、テニールスがここで宗教的なメッセージをも伝達しようとしていることを忘れてはならないだろう。聖人の前の祭壇を思わせる岩塊には、頭蓋骨、砂時計というヴァニタスの象徴と並んで、十字架や聖書という救済の象徴が置かれている。それは、この絵を見る者もまた聖人と同様に救済の道か現世の道かという選択を迫られていることを物語っているのであろう。テニールスはこの主題をもつ作品を幾度も描いており、基本的には同じモティーフが繰り返されている。成熟期とされる1640年代の作品においては、洞窟内に場面が設定されているのに対し、本作品を含むより後期の作品では風景描写にも少なからぬ比重が与えられている。

(出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 2006. cat. no. 31)

写真:ダフィット・テニールス(子) 聖アントニウスの誘惑