この作品は、私が初めて西美の常設展へ行った時に、一番心惹かれた作品です。
赤いローブを身にまとい、手にはハートの柄の杯を持つ、女性の美しさもさながら、その背景に描かれたレース編みの繊細さが非常に美しく、感動のあまり、この作品の前からしばらく動けなかったことを思い出します。
この作品の額には銘文があることを知りました。その銘文の内容からは、戦場へ向かった戦士への愛を表していることがわかるのだそうです。そこで調べてみましたところ、銘文にはこう書かれているそうです。(写真下)
「甘き夜、楽しき昼/美しき愛の騎士へ」
なんてロマンチックな作品でしょうか。また絵だけでなく、額もこの作品に大きな役割を果たしているという点で面白いなと思うのです。
さて、この女性の持つ杯の柄の「ハート」には“愛情”を表現する意味があるそうです。この杯はラヴィング・カップといって親しい者、特に恋人同士でくみ交わす杯なのだそうです。
また学芸員さんにお聞きしたところ、この絵の中には、他のものを象徴する図像が描かれているそうです。
それは、女性の後ろに描かれている蔦。蔦は“忠誠”のほか、“永遠”の象徴なのだそうです。そして蔦の葉もまたハートの形。杯のハートといい、ハート型の蔦の葉といい、この作品を《愛の杯》とした作者ロセッティの制作意図が窺えますね。
この女性の遠くを見つめるような眼差しの先には、愛する恋人の姿が映っているのかもしれない・・・私にはそんな風に思える作品なのでした。 |