私たちは、館長室には立派な椅子があって、館長はそこに座って書類を読んだりしているイメージがあるのですが、実際はどのような仕事をされているのですか?
→椅子はあるんですけどね、実際はあまり座っている時間がないんですよ(笑)
例えばですが、 日本各地の館長が集まる会議に出席し、様々な館の企画や展覧会情報の収集をしたり、美術館に関わる会合などで、これからの美術館についてや今後の見通しについて意見交換をしたりします。
また、国内はもちろんヨーロッパをはじめ海外の国や地域へ、美術作品の貸し借りの交渉に出かけます。どの作品を借りるのかはもちろんのこと、梱包方法から搬出方法に至るまで、しっかり決めてきます。
西美の作品が他の美術館(展覧会)へ貸し出される時は、搬送方法や保護方法の計画と交渉などの打ち合わせをします。大事な作品なのでお互いきめ細かく打ち合わせするんですよ。
美術館の外での仕事が多いのですね。
→もちろん、館の中での会議に出たり、館内や前庭へ出てお客様がどのように作品をご覧になっているのか反応を見てまわったりもしています。
本当にお忙しいですね。
→少しでも時間が空いたときには読書をして気分をリフレッシュさせることもありますよ。
館長の仕事として大切なことは何だと思いますか?
→美術や文化というものは、元々お金儲けのためにあるのではなく、「人が幸せを実感できるもの」としてあるのだと思うのです。美術館も同様に儲けを生み出す場ではなく、皆がお金を出し合って楽しむ場としてあるべきだと考えています。
しかし今、日本中の美術館は経済的に厳しい状態にあります。
一つの展覧会を成し遂げるにも多くの費用がかかりますし、貴重な作品や美術館自体の維持にも経費はかかります。しかし、年々予算は減っているため、研究費や事業運営に必要な経費も減らさなければならないのが実状です。
美術館独自でも工夫はしていますが、やはり文化にはサポートが必要なんだということを周りに理解していただかなければいけません。
ですから、私は外へ出向いてお客様や研究者の声、そして美術館で働く職員の声を届けることが館長として大切な仕事だと思っています。
経済的に厳しいからこそ、たくさんのお客様に来ていただきたいですね。そのために工夫していることはありますか?
→
まずは、展覧会の内容をよいものにするということが第一です。
料金の面ではまだまだ高いという意見もありますが、常設展では18才未満を無料にしました。これは、感受性の強い時期だからこそ多くの若い人に来ていただき、作品と出会って欲しいと考えているからです。
それから、教育普及プログラムや今開催しているクリスマスイベントなどの事業を行うことで、美術館は敷居が高いと感じている方々にもご来館いただけるように工夫を凝らしています。その効果が一番現れたのは常設展を無料開放してさまざまなプログラムを行ったFUNDAYです。このイベントによって小さなお子様を連れた親御さんも気軽に入ることができたと好評をいただきました。
しかし、美術館の収容人数も限られていますし、あまり混雑すると逆に作品が見えにくいといった意見もあります。確かに美術館では静寂の中で作品とじっくり対話してほしいという願いもあります。ですから、入場方法も工夫したり、また椅子など館の備品にもこだわって気持ちよく利用していただけるよう考えています。
(美術館に対する思いがたくさんあるのですね。この続きは、今後の「もっと知りたい!国立西洋美術館」でご紹介します。乞うご期待!)
それでは、最後に西美の作品の中でお好きなものを1点だけ選ぶとしたらどの作品でしょう?
→ジョン・エヴァリット・ミレイの「あひるの子」です。
まず、なんといってもかわいい。童話の「醜いアヒルの子」ってありますよね。ひょっとしたらミレイは自分自身を「醜いアヒルの子」と重ねて、あの少女に投影して描いたのかもしれないなと思ってみています。
※《あひるの子》は、現在展示されておりません。 |
ジョン・エヴァリット・ミレイ
《あひるの子》 1889年
油彩/カンヴァス 121.7 x 76 cm |
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