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聖トマス

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
1593年 - 1652年
聖トマス
油彩/カンヴァス 64.6 x 53.9 cm
P.2003-0002

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17世紀に東フランスのロレーヌ地方に生まれ、生涯をその地で過ごしたジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、死後人々に忘れ去られたものの、20世紀になって劇的な形で再発見され、現在では世界的な名声を得た画家の一人となっている。とりわけ、蝋燭の光に照らし出された神秘的な画面を多く残したところから「夜の画家」とも呼ばれるが、今日まで残る真作は僅か40数点にしかすぎない。
西洋美術館のコレクションに新たに加わった《聖トマス》もまた、こうした再発見史の最も新しいページを飾る作品で、ラ・トゥールの初期の代表的作例とみなされている。その存在が世に知られたのはごく近年の、1987年のことであった。本来この絵は「キリストと十二使徒」を表わす連作のうちの1点として北フランスで描かれ、その後は長い間南フランス、アルビの町の大聖堂内に置かれていた。皮膚の皺一本一本を苛烈なまでに克明に描写する力強いレアリスム、光の洗練された取り扱いを通して簡素な幾何学性を際立たせる画面構成などはラ・トゥールの真作のみに見られる特徴であり、蝋燭の光を画面効果として用いた「夜の絵」に対して「昼の絵」と呼ばれる一連の作品に属している。
ここで主題となっているのは、キリストの十二使徒の一人で、遠くインドにまで伝道に赴き異教の人々に槍で突かれて殉教した聖トマスである。ひげを蓄えた壮年の人物として描かれた聖人は、その持物である槍(十字架上でローマ兵の槍に突かれて絶命するキリストの隠喩。キリスト復活の際に、トマスはそれを疑い、脇腹の槍傷を触ってようやく納得したという聖書中の記述で知られる)を手にしている。ラ・トゥールは「不信のトマス」と呼ばれるこの猜疑心に満ちた頑固な聖人の性格を、対角線の構図の中に見事に描き出した。

(出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 2006. cat. no. 42)

写真:ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 聖トマス