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ナンバー8, 1951、黒い流れ

ジャクソン・ポロック
1912年-1956年
ナンバー8, 1951、黒い流れ
1951年
エナメル、コットン・カンヴァス 140 x 185 cm
右下に木炭による署名、年記: Jackson Pollock 51
P.1965-0008

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1951年にから52年にかけて、ポロックは、希薄な黒のエナメルを下地の無い綿製帆布にしたたらせ染み込ませた、モノクローム作品を多数制作した。その「黒と白」のシリーズは、51年11月に初めてベティ・パーソンズ画廊でのポロックの個展に展示された時、大きな驚きと落胆をもって迎えられた。それまでのドリッピングによるオール・オーヴァーの抽象画に溢れていた色彩が姿を消し、黒一色で描かれているばかりか、形象的なモチーフも復活していたからである。当館所蔵の作品にも、何か四足獣のようなものが見て取れる。そのような形象を「隠されたイメージ」として象徴的に解読しようとする試みもあるが、それらは必ずしも何かを「図解」しているわけではない。
この時期にポロックが黒の形象へと変貌した原因を突き止めようとする試みも、また様々になされてきた。前年の個展で売れた作品が友人の購入した一点にとどまったことに対する落胆や、アルコール中毒症の亢進といった画家の心理的な状況を指摘する説もあれば、ポーリング(絵の具を「注ぐ」描き方)という自己が開いた境地に対するある種のためらいや、様式化への退化の不安が彼を形象的なものに向かわせたと言う説もある。あるいは特定のプロジェクトへの関与(トニー・スミスによる教会)が論じられたこともあった。
しかし、こういった因果論的探求よりもむしろ重要なことは、この一見大きな断絶のように見えるポロックの変貌の裏に潜む、問題意識の連続性である。ポロックは、常に形象化と脱−形象化の二元論的対立を問題視しており、それはポーリングの絵画にさえも当てはまる(例えば大原美術館の《カット・アウト》やシュトゥットガルトの《蜘妹の巣を逃れて》)。「黒と白」のシリーズも、その二元論的探求の延長線上にあるのであり、ポロックの手法における形象化の高まりを見て取るべきであろう。

(出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 2006. cat. no. 122)

写真:ジャクソン・ポロック ナンバー8, 1951、黒い流れ