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愛の杯

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ
1827年 - 1882年
愛の杯
1867年
油彩/板 66 x 45.7 cm
左下に署名(モノグラム)、年記: DGR 1867; 額に題名と銘文: THE LOVING CUP; Douce nuit et joyeux jour / A chevalier de bel amour
P.1984-0005

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1867年制作の本作品は、ロセッティの円熟期を代表する作品の一つである。画家であると同時に詩人でもあった彼は、聖書、ギリシャ神話をはじめダンテ、シェイクスピアらの作品に題材を得て、男性を破滅に導く「ファム・ファタール」の登場するいかにもロマン主義的で詩想豊かな作品を描いた。女性関係にも華やかであったロセッティは、物語のヒロインに対する自分自身のイメージを表現するために、好んでモデルに女友達や愛人を用いた。本作品のモデルはアレクサ・ワイルディングで、彼女は1865年の春以来ロセッティの作品に登場している。しかし、ロセッティは彼女の持つ雰囲気が主題と合わないと感じたのであろうか、同じ年に別のモデルを使って水彩による3点のレプリカを制作している。
深紅のローブを纏い、長い鳶色の髪をうなじに優雅に巻いた若く美しい女性は、金色の杯を口もとに掲げ、左手にはその杯の蓋を胸にあて、夢見るような表情でこちらを向いている。その杯は、本作品の題名でもある「愛の杯」(ラヴィング・カップ)、すなわち親しい者、特に恋人同士でくみ交わす杯であり、それにふさわしくハートの模様が付けられている。本作品の額に記された「甘き夜、楽しき日/美しき愛の騎士へ」という銘文からみて、彼女は戦に赴く、否むしろ既に戦に行ってしまった騎士のために乾杯しているものと想像される。この銘文の出典は判明していないが、アーサー王伝説などに想を得たロセッティ自身の作とも考えられる。背景には見事な刺繍が施された布と4枚の真鍮の皿(左端と右から2枚目は鹿、左から2枚目は「約東された土地からブドウを持ち帰るホセアとヨシュア」(『民数記』第13章17-29節)、右端は「禁断の木の実を食べるアダムとエヴァ」と識別される)が描かれ、さらに「忠誠」の象徴である蔦が描かれているが、その葉のかたちが「愛の杯」のハート形の模様に一致するなど、制作意図を正確に把握することはできないまでも、造形的にも意味内容の上でも作者の周到なる配慮が窺われる。いずれにせよ「ラファエル前派」を代表するロセッティの芸術的特質を充分に伝える秀作である。

(出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 2006. cat. no. 91)

写真:ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 愛の杯