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[版画素描展示]
受難伝: 国立西洋美術館所蔵のドイツ・ルネサンス版画による
[版画素描展示]
受難伝: 国立西洋美術館所蔵のドイツ・ルネサンス版画による
- 会期
- 2003(平成15)年3月4日- 2003(平成15)年5月18日
- 会場
- 国立西洋美術館 版画素描展示室
- 主催
- 国立西洋美術館
- 出品点数
- 版画72点
十字架上の死と復活に至る、福音書に記されたキリスト苦難の各場面を連作のかたちで表した受難伝は、中世を通じて、キリスト教美術の重要な主題として作品に取り上げられてきました。中世を通じて壁画や写本挿絵、聖堂を飾る建築彫刻、ステンドグラスやさまざまな工芸作品に表されてきた受難伝は、さらに14世紀以降、後期ゴシックの時代となれば、祭壇画や祭壇彫刻の主題として、あらゆる教会装飾の中心に位置付けられることになります。
福音書の記述は、キリストの受けた苦難を簡潔なかたちで記していますが、画家や彫刻家達は、キリスト教美術の歴史を通じて常に、福音書に記された出来事を単に視覚化するだけではなく、その出来事の意味や解釈までも見るものに伝えようとしてきました。とりわけ14世紀以降の受難伝には見る者に、キリストの身体的、あるいは心理的な苦難を追体験せしめるような表現が求められました。自らの心の中でキリストの苦難を具体的に追想することは当時の宗教的な祈念の重要な課題でしたが、新たな受難伝にはこうした課題からしても、さらにエピソードに富んだ、具体的な描写が求められるようになったのです。
15世紀に普及した版画による受難伝も、まさにこうした中世末期の図像伝統の中から浮かび上がってきます。とりわけドイツでは、ショーンガウアーやデューラー、クラーナハといった、中世末期からルネサンスにかけて活動した代表的な画家たちが、高度な版画技法を駆使して受難伝に取り組みました。彼らは、新たな版画芸術の可能性を通じて、聖書に記された記述にどのような美的形態を与え、あるいはどのような感覚的内容を盛り込むか、という課題を、作品を通じてそれぞれのかたちで模索していた、ということができるでしょう。
本展はごく小規模な展覧会ではありますが、国立西洋美術館に所蔵されるデューラーとアルトドルファーの連作版画を中心に、新たな美術媒体としての版画の中で、どのように受難伝という伝統的な主題が取り上げられたかを見てゆきたいと思います。